昔話『浦島太郎』はよくご存じのお話でしょう。今はauのCM「三太郎シリーズ」のモチーフにもなっていますよね。この『浦島太郎』が最初に書物に登場したのは、今から約1300年前に完成した『日本書紀』といわれています。
途方もなく長い期間、日本人に愛され続けている『浦島太郎』。時代や地方により細かい部分は違いますが、登場人物は変わりません。主人公は浦島太郎(別名あり)でヒロインは乙姫(別名あり)です。ところが、明治以前の『浦島太郎』は現代に伝わるようなほのぼの話ではなく男女の物語でした。
今回は、日本最古の男女の物語の一つ『浦島太郎』から、現代の恋愛テクニックに応用できるものがないか探っていきましょう。
浦島太郎と乙姫は夫婦だった
現代に伝わる『浦島太郎』ではぼやかされていますが、浦島太郎と乙姫は結婚しています。
これは明治時代以前までの『浦島太郎』に共通するパターンです。明治以後は小学校の教材に使用されたものが定着したため、どうしても男女の仲という記述は省かざるを得なかったのでしょう。
元の話と違う点は、他にもあります。亀の設定です。明治時代以前は、亀が乙姫です。浦島太郎に助けられた亀が彼に好意を寄せ、今度は人間の姿になって再び現われる。そして、二人は竜宮城やそれに準じる施設で仲睦まじく暮らすというのが通常パターンでした。
よく考えてみれば、現代の『浦島太郎』はおかしいですよね。助けた亀が竜宮城勤務のスタッフだとしたら、乙姫が浦島太郎をもてなす理由が分かりません。ですが、助けた亀が乙姫自身なら納得です。男女の関係をにおわす記述は、明治時代以後は消しているのです。
これを踏まえて、続きを読んでいきましょう。
ラストは2つのパターンがあった
私たちがよく知っている『浦島太郎』の結末は、浦島太郎が玉手箱を開けて老人になるものです。
ところが、鎌倉時代末期から江戸時代にかけて集められた『御伽草子』の結末は違います。玉手箱を開けた浦島太郎は鶴に変化し、蓬莱山に飛び立つのです。蓬莱山で亀の乙姫と仲良く暮らしたそうです。蓬莱山とは架空の国にある山で、極楽浄土と同じようなポジションと考えていただければ結構です。
鶴と亀といえば長寿の象徴として日本で昔から愛されている組み合わせ。結納などお祝いの席にはモチーフとして現代でもよく登場しています。
ということは、玉手箱を開けて老人になるというバッドエンドとは違います。ただ、完全なハッピーエンドとは言い難いものです。竜宮城から人里に戻った浦島太郎には家族がいなくなっていますから。そんな時、最後にただ一人愛する女性の乙姫がいてくれるのは嬉しかったでしょう。
浦島太郎を誘導した乙姫の賢さ
以上、2パターンの結末をみてきました。どちらにしろ、乙姫は浦島太郎を確実に自分のモノにしています。浦島太郎の興味を他の女性に移していません。この恋愛テクニックが素晴らしい。
まず、玉手箱の存在です。これは二人の過ごした時間が詰まっています。思い出ともいえるでしょう。これを竜宮城から去る浦島太郎に渡す。自分のもとから去ろうとする人を泣き叫び引き止めるのではなく、思い出を最後のプレゼントにするのですから良いオンナです。これこそ乙姫の恋愛テクニックの極意です。
玉手箱を開けてはならないと指示する点も、乙姫の恋愛テクニック。本当なら「二人の思い出に浸ってね」と言いたいところです。しかし、動作を禁じられると許可される以上にその対象に興味を持ってしまうものです。男性なら特に。
浦島太郎は玉手箱を開けて老人や鶴に変化しますが、乙姫に責任はありません。だって、開けてはならないと先に言っているのですから。その言葉を裏切ったのは浦島太郎です。
こうやって彼に後ろめたさを感じさせ、自分との思い出に浸らせる。さらに『御伽草子』バージョンでは、復縁までしてしまっています。乙姫の恋愛テクニックは素晴らしいとしか言いようがありません。
現代でも使える乙姫の恋愛テクニック
乙姫の恋愛テクニックは、二人の思い出を浦島太郎に忘れさせないというものです。
これをしていれば、多少距離が離れても必ず彼は戻ってきます。
意図して行ったものではないかも知れませんが、上手いものです。
現代に生きる私たちも彼との思い出を彼に忘れさせないよう、知恵を絞っていきたいものですね。
広島県海田町出身。恋愛記事からビジネス文書まで幅広く手掛けるライター。古典芸能に携わっていたことから、日本文化について少し詳しい。 |